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東京高等裁判所 昭和46年(ネ)1597号 判決 1972年9月26日

控訴人(附帯被控訴人) 秋谷八十男

控訴人(附帯被控訴人) 古山静子

控訴人(附帯被控訴人) 秋谷優子

右三名訴訟代理人弁護士 佐川浩

被控訴人(附帯控訴人) 大竹和夫

右訴訟代理人弁護士 小林勇

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

原判決主文第三項は仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人らに対し、原判決別紙物件目録(一)記載の建物につき、横浜地方法務局川崎支局昭和四四年七月二日受付第二五、三三八号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。被控訴人の反訴請求を棄却する。原審昭和四四年(ワ)第一、七〇一号事件の被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決ならびに附帯控訴棄却の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決ならびに附帯控訴として主文第三項と同旨の仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の事実上および法律上の主張ならびに証拠の提出、援用、認否は、次のとおり付加するほか原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一、控訴代理人の陳述

1.仮に訴外秋谷トヨ、同池田吉秋間に被控訴人主張のような本件建物による代物弁済契約が成立したとしても、右代物弁済の対象とされたのは、本件建物の全部ではなく、その一部すなわち秋谷らの居住部分のみであるから、右代物弁済により本件建物の全部の所有権が池田に移転するいわれはない。

2.仮に本件建物の全部につき代物弁済が成立したとしても、それはいわゆる清算型代物弁済である。すなわち本件代物弁済のなされた昭和四四年六月当時の本件建物の価格は少なくとも四五〇万円を下らず、その敷地七〇坪の借地権の価格は八八二万円(更地価格坪当り一八万円の七割)に上り、その合計は一、三三二万円であるのに対し、代物弁済にかかる債権額は三〇二万三、七二〇円にすぎず、その間に一、〇二九万六、二八〇円の較差が存する。従って池田としては右差額金を秋谷トヨに返還して清算すべき義務があり、同人がその清算義務を履行しないかぎり、本件建物の所有権は確定的に同人に移転しないというべきである。それ故同人から本件建物を譲受けた被控訴人の所有権もまた確定的なものとはいえない。

二、被控訴代理人の陳述

1.訴外池田吉秋が代物弁済により所有権を取得したのは本件建物の全部である。

2.本件代物弁済がいわゆる清算型代物弁済であることは否認する。

なお、被控訴人は池田から売買により本件建物の所有権を取得したものであるから、同人から控訴人秋谷八十男に対する本件建物の賃貸借契約上の地位を承継しただけであって、それ以上に池田と秋谷トヨまたは控訴人秋谷八十男との間の法律関係を承継することはない。従って池田が控訴人ら主張のような清算義務を負っていたとしても、被控訴人にその義務はない。

三、証拠関係<省略>

理由

一、当裁判所の判断は、次に訂正付加するほか原判決理由記載のとおりであるから、これを引用する。

1.原判決一〇枚目表一行目から二行目にかけての「同池田吉秋、同松山光佑の各証言及び原告秋谷八十男」を「同松山光佑、原審ならびに当審における証人池田吉秋の各証言および原審ならびに当審における控訴人秋谷八十男」と改める。

2.同一一枚目表一行目の「右被告」を「訴外池田吉秋」と改め、同一一行目から一二行目にかけての「原告秋谷八十男」を「原審ならびに当審における控訴人秋谷八十男」と改める。

3.同一一枚裏一行目の「証拠はない。」の次に左記を加える。

「控訴人らは、右代物弁済の対象とされたのは本件建物のうち控訴人秋谷八十男らの居住する部分のみであったと主張し、なるほど前掲乙第二号証(確認証書)には本件代物弁済の目的物件の表示としてその面積一階二二坪二合五勺二階六坪と現況と相違する坪数が記載されており、控訴人秋谷八十男は当審における本人尋問において右乙第二号証記載の建物は同控訴人の居住部分を表示したものであると供述している。しかし、前掲甲第一号証および当審における証人池田吉秋の証言によれば、本件建物はもと一階二二坪二合五勺二階六坪として登記されていたが、昭和四〇年一〇月一日増築により一階一二五・一九平方米、二階一四四・一九平方米と変更の登記がなされていたこと、乙第二号証の建物の表示は池田が訴外横浜信用金庫に代位弁済した際同金庫から交付を受けた関係書類によって記載したものであること、同人は右坪数が現況と相違することに気づかず本件建物全部を表示したものと考えていたことが認められ、これらの事実と弁論の全趣旨によって明らかな控訴人秋谷八十男が居住占有する部分は原判決別紙物件目録(二)記載のとおりであり乙第二号証記載の面積と相違することおよび右部分が区分所有の対象となるような構造上の独立性を有するものでないことを考え合せると、乙第二号証の建物の面積は増築前の旧坪数を不用意に記載したにすぎず、本件代物弁済は本件建物全部を対象としてなされたものとみるべきであり、控訴人らの主張は採用のかぎりでない。」

4.同一一枚目裏六行目の「いうべきである。」の次に左記を加える。

「控訴人らは、本件代物弁済はいわゆる清算型代物弁済であると主張する。そして、世上往々にして代物弁済契約の形式を借り担保たる不動産の名義を債権者に移転せしめながら、なお既存債権を消滅せしめることなく、該不動産を処分することにより清算を行うことがありうる。しかし、そのような場合は清算差額を債務者に返還することを約定するのが通常であろう。あるいはそのような約定がない場合でも、不動産の価格が債権額を著しく超過しその間に合理的均衡を失するような場合は、前記のような担保契約(譲渡担保)と解すべき余地がないわけではない。ところで本件においては、右の趣旨の差額返還の約定がなされた形跡はない。また、鑑定人豊谷周順の鑑定の結果によれば、昭和四四年六月当時の本件建物およびその敷地の賃借権の価格は五五〇万七、〇〇〇円であったことが認められるところ、これを当時の池田吉秋の控訴人秋谷八十男に対する債権額三〇二万三、七二七円と対比すれば、いまだその間に合理的均衡を失する程度の較差があったものとすることはできない。従って本件代物弁済契約は本来の意味の代物弁済と認めるのが相当であり、控訴人らの主張は採用しがたい。」

二、以上によれば、原判決の結論は相当であって本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用し、附帯控訴に基づき同法一九六条を適用して仮執行の宣言を附することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 菅野啓蔵 裁判官 渡辺忠之 小池二八)

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